映画 雲のむこう、約束の場所 -The place promised in our early days-
随分と青臭い話だなあ.
主人公の藤沢浩紀(cv.吉岡秀隆)自体,少年がそのまま大人になったような感じだからね.
沢渡佐由理(cv.南里侑香)の儚い声がいい.いかにもな感じのヒロインらしい声.
わかりやすい藤沢浩紀とは逆に,白川拓也(cv.萩原聖人)はつかみにくい部分がありましたね.
特に後半の開戦直前の白川拓也と笠原真希(cv.水野理紗)の会話がピンと来なかった.
「爆破テロの噂,本当かしら.」
「どうでしょうか.ただ, 開戦はもう目前だろうし,そうなれば塔の研究どころじゃなくなるかもしれません.結局,ツキノエがしていることも,ウィルタのようなテロ組織がしていることも南北分断への抗議って意味では同じことなんじゃないかって気がします.」
「白川君って,ちょっと不思議よね.なんだか秘密が多いみたい. 」
「いえ,そんなこと...」
エクスン・ツキノエがユニオンの塔を設計していますが,(白川拓也が言う)塔から南北分断への抗議というメッセージが読み取れませんでした.そのあたり笠原真希もピンと来なくて「なんだか秘密が多いみたい.」というセリフで返したのかもしれません.蝦夷どころか,最悪,世界を書き換えるかもしれない塔を抗議の象徴とする理由はなんでしょう?
こんな分断された世界は(正しい世界に)書き換わらなくてはならないって?それじゃあ極端すぎるよ.
それから,その前のシーンで白川拓也が拳銃でヴェラシーラを撃とうとして藤沢浩紀と殴り合っていましたが,結局は沢渡佐由理を連れ出してヴェラシーラを飛ばす手伝いにまわります.個人的にはその気持ちの変遷を掘り下げて欲しかったですね.藤沢浩紀と沢渡佐由理は病室で(精神的に)逢えていることから,藤沢浩紀は沢渡佐由理を目覚めさせる確信を持っています.しかし,白川拓也にはそれがない.理詰めで考える白川拓也を藤沢浩紀が説得できるとも思えない.そこが劇中では沢渡佐由理を目覚めさせるため「藤沢浩紀に賭けてみる」的なあっさりめの描き方だったような気がします.やはり,白川拓也は「沢渡佐由理が米国にサンプルとして送られる」のが我慢ならなかった,と見るのが自然なのか?
確かにメインストーリーは藤沢浩紀と沢渡佐由理の心のつながりな訳だし,それはそれで良かったのかもしれない.
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中学生の頃に廃駅に沢渡佐由理を連れてきたシーンの最後.
「あたしね.さっき一瞬だけ夢見てたんだ.」
「夢?どんな夢?」
「んー.わすれちゃったな.でも,多分,あの塔の夢.」
「嘘みたいな眺めだもんな.ユニオンは凄いよ.」
「塔の先.他の世界まで繋がっていそうだ.」
「はあーっ.夕日.なかなか沈まないね.」
「本当に,あれは特別な夏だった.でも,僕を囲む世界は,この先,何度でも僕を裏切る.」
「あれから3年.あの日を最後に僕は沢渡には会っていない.」
「他の世界まで繋がっていそうだ」という何気ない言葉に真理が隠されていましたね.
にしても,普通,中学男子ってもっとギラついてないもんかな.いや,東北だから純朴なんだ,っていう解釈もあるけどさ.
まあ,だからこそ物語の全編を通して一貫した理想的(?)というか,終始,夢を見ているような世界観を感じながら観ることができますね.
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3年後,東京の高校で授業中に居眠りしていた藤沢浩紀が沢渡佐由理が出てくる夢を見ます.初見では沢渡佐由理が見ている夢かと思ったのですけど.後で藤沢浩紀が同じように教室に駆け込む夢が出てきますが.
(以下,そのシーン)
「そこはずっと遠くの宇宙からやって来たような冷たく深い風が吹いていて,空気には違う宇宙ににおいがしました.空と雲と崩れた街,どこまで歩いても誰もいない.寒い...私,どうしてこんなところにいるの?誰か.ねえ,誰か.浩紀くん.」
「また,あの夢だ.」
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東京の高校での水野理佳と藤沢浩紀のシーンあたりは,ひたすら藤沢浩紀のモノローグが印象に残りますね.特に「体中の骨が皮膚を突き破るような激しい心の痛みを感じる」の部分とか.おー,分かる,分かるぞ,それ,みたいな.
でも,この二人付き合ってないって本当なのか?どう見ても水野理佳に押し切られ,どことなく沢渡佐由理の面影を重ねてしまった藤沢浩紀が「まあ,いいや」的に付き合い始めた,と観ていましたが.
ちくしょう,このリア充め.
(以下,そのシーン)
「ヴェラシーラを結局,僕達は飛ばさなかった.3年前.佐由理が僕達に何も言わないで消えてしまったことはそれなりにショックだったし,そのことで飛行機作りを止めてしまった自分達自身にも僕達は腹を立てていたのだと思う.中学卒業後,拓也は青森県内の高校に進学し,僕は東京の高校に来た.東京まで来ればユニオンの塔は見えなくなると思ったからだ.でも,それは期待はずれで,時々天気がいいと東京からも塔はかすかに見えた.そういう日,僕は一日暗い気持ちに支配された. 」
「時々,岡部さんからは近況を知らせる手紙が届いた.返事は一度も出していない.部屋にたどり着いてドアを閉めるたび,まるで体中の骨が皮膚を突き破るような激しい心の痛みを感じる.いつの間に僕はこんな物を抱え込んでしまったのだろう.」
「一人暮らしの夜は長く感じた.上手く時間をやり過ごせない時は僕は近くの駅まで歩き,誰かを待っているふりをしながら時間をつぶして,それにも飽きると部屋までの帰り道をなるべくゆっくりと歩いた.高校に友達はいたけれど,制服を着ている時以外はどうしてかあまり一緒にいたいと思えなかった.3千万以上の人が暮らす街で,考えてみれば会いたい人も話したい人も僕には誰もいなかった.そういう日々の中で時々,佐由理の夢を見た.それはどこか冷たい場所に一人きりでいる佐由理を必死に探す夢で,結局,いつも佐由理の姿は見つからなかった.ただ,心を震わすような佐由理の気配だけは目が覚めてからも体に残っていた.気がつけば東京に来てから三度目の冬だ.まるで深く冷たい水の中で息を止め続けているような,そんな毎日だった.」
「僕だけが.」
「私だけが.世界に一人きり取り残されている,そんな気がする.」
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高校の寮の自室で藤沢浩紀が目を覚ますシーン.
「あの翼...私,知ってる...」
「目を覚まし,一瞬, 自分がどこにいるのかよく分からなくなる.僕はもしかして間違えた場所に来てしまったのではないかと.時々思う.今では佐由理の夢の方を,現実よりも現実らしく感じている.」
この感覚,東京で一人暮らししていたときによく感じましたね.アニメを数時間見た後,自分の部屋を見回して「ここはどこだ?」みたいな感覚に襲われることが度々ありました.アニメの中の世界が現実になってしまって,本物の現実に戻れなくなってしまうという妙な感じ.現実に引き戻される瞬間,何かものすごい喪失感に襲われますよね.
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富澤常夫(cv.井上和彦)は,見た目が策士風というか悪人ぽかったのですけど割と純粋な人なんですかねえ.沢渡佐由理の病室で沢渡佐由理の気を感じ取るように病室を振り返るとか.岡部(cv.石塚運昇)と電話しながら過去の飛行機の写真を見たりしてるのが気になりました.
2005年12月8日にNHK-BS2(アナログ)「アニメ映画劇場」で放送されたものを録画で視聴.録画されていたことすら忘れてましたよ.
2004年制作 新海誠監督
コミックス・ウェーブ
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